"Jersey Boys"(邦題『ジャージー・ボーイズ』)


ジャージー・ボーイズ』写真クレジット:Warner Bros.
1950年代のニュージャージで、ケチな窃盗などをしながら兄弟とバンド組んでいたトミー・デヴィート (ヴィンセント・ピアッツァ)は、見事な高音で歌う近所の少年フランキー・カステルチオ (ジョン・ロイド・ヤング)をバンドに引き入れる。
彼の歌声が気に入ったマフィアのボス、ジプ・デカルロ(クリストファー・ウォーケン)は、フランキーへの支援を約束。バンドは売れなかったが、ある時友人から才能あるシンガー・ソングライターのボブ・ゴーディオ(エリック・バーガン)を紹介され、ボブはフランキーの歌声を聞いて、この声のために曲を書こうと心に決める。
バンドはフォー・シーズンズ(以下FS)と名を改め、ボブの書いた曲をフランキーが歌って次々と大ヒットを生んで行く。

オリジナルが04年に初演されブロードウェイで大ヒットした同名ミュージカルだったので、ミュージカル映画を期待して行ったのだが、バンドの結成から成功、解散までを描いた伝記映画だった。

バンドの変遷と共にその時々のヒット曲「シェリー」「恋のヤセがまん」が登場するので、それ自体はかなり楽しめたのだが、ドラマとしての見応えにはイマイチだった。

このバンドには逮捕歴があり、マフィアのボスとの関係もある、という部分を軽妙に描く一方、トミーの借金問題やフランキーとボブへの嫉妬、フランキーの私生活の不幸などがシリアスに描かれ、作品のトーンが掴めないのだ。同じトーンを通す必要はないが、このギャプが肝心なところではぐらかされたような感覚に繫がって、主人公らへの理解や共感を持つことを難しくしていた。

監督は今や名匠の趣きがあるクリント・イーストウッド。脚本も舞台と同じマーシャル・ブリックマンとリック・エリス、音楽はフォー・シーズンズのゴーディオ、フランキー役のヤングも舞台で同役を演じてトニー賞を得た俳優、という舞台オリジナルを重用している。

それ自体は高く評価したいと思うが、舞台と映画では描けるものや見えるものが大きく違う。だからミュージカル映画ではなく伝記映画という設えにしたのだと思うが、伝記である以上それを語る側の批評性が不可欠だ。製作にFSのメンバーだったフランキー・バリらが加わっていることも批評性を弱めた理由かもしれない。

最後はハリウッド常套の昔の仲間が集まって大団円だったが、実際のところフランキーとトミーは今でも仲違いが続いているという。その嘘っぽさは舞台ミュージカルでは見えないかもしれないが、映画にはちゃっと映ってしまう。たとえ俳優が演じていても。

イーストウッド監督には『バード』というジャズ奏者チャーリー・パーカーの伝記映画がある。本作とは比較にならない名作で、口直しに見直そうかと思っている。

上映時間:2時間14分。全米のシネコン等で上映中。日本は9月に劇場公開予定。
"Jersey Boys" 英語公式サイト:http://www.jerseyboysmovie.com/
ジャージー・ボーイズ』日本語公式サイト:http://wwws.warnerbros.co.jp/jerseyboys/