"Violette"


"Violette" 写真クレジット:Adopt Films
ヴィオレット・ルデュックは、20世紀初頭に生まれたフランスの作家。私生児として生まれ、貧困の中で中絶や離婚を経験し、女や男と関係を持った。
彼女のベストセラーで自伝的要素の強い『私生児』の序文を書いたのはシモーヌ・ド・ボーヴォワールだ。本作はこの作家と哲学者の微妙に食い違う関係への期待を、それぞれの感情に寄り添いながら描き、深い満足を味あわせてくれた。

時は1942年、闇商品を扱って生計を立てる旺盛な生命力を持ったルデュック(エマニュエル・ドゥヴォス)は、ゲイの作家モーリス・サックス(オリヴィエ・ピ)と暮らしていた。彼の愛を得ることが出来ない彼女は、彼に勧められて文章を書き始める。

自分を疎んだ母やその後の体験について書くことに没頭するルデュック。しばらくして、ボーヴォワール(サンドリーヌ・キベルラン)の作品と出会い、瞬く間に彼女に傾倒。花を抱えて彼女の後をつけ、自作を読んでくれと頼みにいく。

自らの出生や中絶、性体験を書いたルデュックの作品を高く評価したボーヴォワールは、出版社を探す約束する。しかし、男たちは女が赤裸々に性を書くことに嫌悪感を抱き、出版を渋るのだった。

二人が出会った頃、ボーヴォワールは『第二の性』を執筆しており、ルデュックの著作は女を自由にすると直感し、彼女を支援する。一方ルデュックは、ブルジョア出身で知的なボーヴォワールに恋心を抱いてしまう。自分を醜いと思い、孤独の中で生きてきたルデュックは、美しく著名な作家に評価/庇護されることの喜びに心を沸き立たせるが、ボーヴォワールはむしろそんな彼女を遠ざける。

本作を見る限り二人に恋愛関係があったのか、という問いかけにはあまり意味がない。対照的な二人ではあるが、ボーヴォワールヴィオレットに女の真実と可能性を見出だし、常に孤独に苛まれていたルデュックは彼女の不変の信頼と支援を得て、自分の世界を切り開いていく。

高い知性と激しい情熱を秘めた二人の女の関係には希有な力強さがあり、本作は才能を信じ支えることの難しさと高い精神性を描き出して感動的だった。

監督は女性画家の伝記『セラフィーヌの庭』のマルタン・プロボスト。ルデュックが書いたセラフィーヌの評論を読んで映画化を思い立ったようだ。共に孤独の中で自らの才能を信じて生きて行く女性への共感と敬意が感じられる作品だ。

ルデュックがゲイで私生児だったジャン・ジュネ(ジャック・ボナフェ)や香水で知られるゲラン(オリヴィエ・グルメ)と知遇を得て、交流する様子も描かれる。戦後フランス文学や哲学に浸ったことのある人なら、見どころも多いのではないだろうか。

上映時間:2時間18分。全米のランドマーク・シアター系列の劇場などで上映中。
"Violette" 英語公式サイト:http://en.unifrance.org/movie/35229/violette