"Under the Skin" (原題『アンダー・ザ・スキン 種の捕食』)


"Under the Skin" 写真クレジット:A24
闇の先をどうしても見たい誘惑に駆られて、真っ暗な洞窟を微かな光を頼りに歩き続けてしまう、そんな麻薬的な映画だった。公開後に即DVD化されてしまったが、劇場でこそ観たかったSF映画の傑作だ。
スコットランドの町が舞台。大きなバンを運転する美しい女(スカーレット・ヨハンソン)が、町中をドライブしながら男たちに道を聞く。どの男も必ず親切に道案内をし、女が「送るわよ」と誘うと嬉しげに同乗する。こんな美人に声を掛けられてパスする男はいない。軽い会話の後、女は男を自分の住処に連れて行く。

何人もの男がこの住処にやってきては消えていく。「どこへ?」「どのようにして?」は少しずつ明かされていくが、「なぜ?」は最後まで分からない。分かったことは、この女が人間ではないことくらいである。

女は男を誘いながら、少しずつ人間的な感情を持つようになっていく。いったん捕まえた特異な風貌の男を逃がしたり、借り物である自分の身体を裸になってしげしげと見つめたり……。

よくわからないことだらけなのに、グイグイと惹き付けられる。人間の肉体と感情を持ったことがない生命体が地球で生きる体験はどんなものなのか。誘惑や死やセックスをこの生命体はどのように受け取るのか。

ほぼ一人芝居の主演を演じたヨハンソンが、肉体と内面が一体化する前の存在という難役に挑戦している。女が初めて男とセックスする時の反応が絶品だ。ハリウッドのスター女優だからこそ、この挑戦に大きな刺激を受けたのだろう。美貌と知性、勇気を併せ持つ一級の俳優に成長した感がある。

監督は『セクシー・ビースト』『記憶の棘』のジョナサン・グレイザー。寡作の人で長編は本作で3本目。本作のために10年を費やしたというのは、ただの広告文句ではないだろう。ミュージック・ビデオを多く作っている人の作品らしく、宇宙的でホラーなミカ・レヴィの音楽が重要な役割を果たしている。
原作はシュールレアリスト作家ミッシェル・フェイバーの同名小説。グレイザーとウォルター・キャンベルが脚色してるが、原作を大幅に省略したことで謎が増したように思う。

作り手が意図していたかどうかは分からないが、筆者には極めてフェミニスト的な映画に感じられた。この地球で若く美しい女である、というのはどういう体験なのか。魔術的な力を持ちながらも、暴力への無防備さを併せ持つ危うさ。エンディングで身体に響いた振動は今でも続いている。

上映時間:1時間48分。米国ではすでにDVD化されているので購入可能。
"Under the Skin" 英語公式サイト:http://undertheskinmovie.com/