"Snowpiercer" (邦題『スノーピアサー』)


『スノーピアサー』写真クレジット:The Weinstein Company
地球温暖化対策のために散布された薬品によって、氷河期を招いてしまった近未来の地球。わずかに生き残った人類は『スノーピアサー』と呼ばれる列車の中にいた。ところがこの列車は先頭車を頂点とした階級によって住み分けられており、後尾車に詰め込まれた人々の生活は劣悪。彼らは、「人間には生きる場が決まっているのだ」という醜悪な管理者メイソン(ティルダ・スウィントン、名演)の恐怖的支配の下、奴隷生活を強いられていた。
だが、革命を企むカーティス(クリス・エヴァンス)らは老練なギリアム(ジョン・ハート)の指導の下、列車を発明した支配者ウィルフォードのいる先頭車を目指し、まずはセキュリティ・システムの鍵を握る男ナムグン(ソン・ガンホ)を探し出そうとしていた。

監督は韓国の気鋭ポン・ジュノで、彼の初の英語作品。英語圏からは他にもジェイミー・ベルオクタヴィア・スペンサーなど実力派俳優たちが集まっており、気合いの入ったSFアクションの大作だ。前半、画面が暗くアクションも過多でやや食傷したが、後半になってウィルフォードの世界観が提示され、話はかなり面白くなっていく。アクション映画の枠組みを使って、人間の一面の真実を描こうとした意欲的作品で、さすがジュノ監督と感心した。

彼は『殺人者の追憶』や『グエムル -漢江の怪物-』など自らが脚本を書いたオリジナル作品を作ってきた人だが、本作はフランスのグラフィックノベル『Le Transperceneige』を下地に彼とケリー・マスターソンが脚色している。

先行車に暮らす富裕層はカーティスらの苦境など何も知らず安穏と暮らし、寿司屋や水族館列車など意表をつく車両が登場。貧富の差が明確に存在する小世界が車内に作られている。列車が舞台なので密室の窒息感があるが、雪に包まれた外界を猛烈なスピードで行く列車を疾走感たっぷりに見せて空気穴を空けつつ、逃げ場のない人間を描く演出が巧い。

列車という限られた空間で人間が生き延びていくために必要なことは何か。人口を増やさないこと、人間心理の管理。怖れや不安、カオスなどが人間世界のバランスを保つために必要だと信じるウィルフォードの世界観は明快で、「戦争も必要悪」という詭弁と一緒だ。持つ者富める者はこういう論理が大好きである。しかし、人間の未来を切り開いていく力は計画/予定されたバランスではなく、予期しないアブノーマルにあるのではないだろうか。

ジュノ作品には最後に観客をポーンと放り出すような感覚がある。ポーンと飛ばされつつ、自分で感じて考えてみろ、と言われている感じが堪らなく好ましい。本作も見事に飛ばされた。

英上映時間:2時間7分。米国内ではiTune Movie、Amazon Instant Videoなどで視聴可能。
"Snowpiercer" 英語語公式サイト:http://snowpiercer-film.com/
『スノーピアサー』日本語公式サイト:http://www.snowpiercer.jp/index01.html