"A Girl Walks Home Alone at Night"


"A Girl Walks Home Alone at Night" 写真クレジット: VICE Films
スタイリッシュな白黒の画面で描かれる若い女バンパイアの物語だ。
舞台はイランの架空の町、バッドシティ。黒くて長いチャドルを頭部からすっぽり羽織った謎の女(シェイラ・ヴァンド)が夜の町を徘徊する。
いや彼女は何かをジーッと見つめている。売春婦を車に連れ込む男や深夜の路上で遊ぶ少年、街角に佇む売春婦アティ(モズハン・マーノ)など。そんなある晩、彼女は、父の介護をしながら愛車を友に生きる若者アラシュ(アラシュ・マランディ)と出会い、2人は恋に落ちていく……。

物語を語ろうというより、出口のない小さな町で生きる閉塞感や憂鬱を、優れた映像感覚とレトロなムードたっぷりに見せていく作品だ。バンパイアを主人公に据えることで鮮烈でホラーっぽいテイストも加味されてはいるが、ホラー映画とは言えないだろう。

若い女は、ウェイトレスでも住んでいそうな貧しげな部屋で、ヒップなポスターや装飾に囲まれ一人暮らし。夜な夜な太いアイライナーを引き、ストライプのTシャツをきて夜の町へ出かける。
バンパイアは昼間、棺桶で寝ているはずだが、イランのバンパイアはアパート住まいだ。

それにしてもイラン女性がまとうチャドルをバンパイアの衣装に使ったアイディアは卓抜している。あの真っ黒で大きな布の下に何が潜んでいるのか? 想像力がぐんぐんと広がり、飛躍していく。

脚本/監督は英国生まれで米国育ちアナ・リリー・アミルプールで、本作が初長編作品。イラン女性が初めて作ったバンパイア・ウェスタンという触れ込みだが、私見を言えばフェミニスト・バンパイア・ウェスタンである。

彼女の餌食になるのは、女に暴力を振るう男や買春をする男で、孤独な売春婦アティには親近感を抱き彼女の部屋までついていく。この先どうなるだろうと思ったあたりで男との恋へと転じて、平凡な着地点にストン。これはちょっと残念だった。せっかくチャドルをまとったバンパイアを造形したのだから、あの布の下にため込まれてきたイランの女達の思いをもっと表現して欲しい気がしてならなかった。

イランの女性監督作品というとパリ在住のマルジャン・サトラピの『ぺルセポリス』(http://d.hatena.ne.jp/doiyumifilm/20080111) が以前話題になったが、作品としては本作の方がオリジナリティがあって刺激的ではあった。

上映時間:1時間44分。
"A Girl Walks Home Alone at Night" 英語公式サイト:http://films.vice.com/a-girl-walks-home/