“Only Yesterday”(邦題『おもひでぽろぽろ』)


おもひでぽろぽろ』写真クレジット:Gkids
舞台は1982年、都会育ちのタエ子は27歳。子どもの頃、夏休みになっても「いなか」が無くて寂しかった彼女は、ようやく自分の「いなか」を見つけた。
姉の夫の親類がいる山形の農家を訪ねることができるようなったのだ。仕事先から夏の休暇を取って山形に向かうタエ子。寝台車の車中で「いなか」が欲しかった11歳の頃の自分を思い出し、休暇中もその頃の思い出が何度も蘇っていく。

1991年に高畑勲が脚本・監督したスタジオジブリの名作アニメが、25年を経てようやく英語吹き替え版で劇場公開されることになった。一言で言うと懐かしさに胸がキュー。だがそれ以上の作品であることは言うまでもない。

まずは、本作の半分近くを占める11歳のタエ子を描く66年、タエ子の現在である82年、そして製作当時の91年というタイムラインを行き来するマジカルな感覚に魅了される。とりわけ、丁寧に再現された66年当時の日本の生活風景、小学生の世界である大真面目な生徒会や給食当番、『ひょっこりひょうたん島』などディテールを重視した描写が秀逸だ。
加えて山形で有機農業を始めた青年とタエ子の交流、変化していく心の変化を清々しく描いて、ほぼ完璧と言える物語世界を作り出した。米の辛口映画批評家の評価を集めたサイトでも100%の高い評価を獲得。小津映画を知る人は導入部で若い女性の結婚への道のりを描いた『麦秋』へのオマージュを感じるかもしれない。

米国での公開が遅れた理由は、早くに配給権を獲得したディズニーが、小学生の初潮体験について描くエピソードに難色を示したため、長くお蔵入りとなっていた経緯があったようだ。女性解放運動の先鞭を切った米国なのに?である。

原作は岡本螢と刀根夕子の漫画で、87年に『週刊明星』誌上で連載された。平成3年に終刊した『週刊明星』と言えば昭和を代表する週刊誌。芸能記事中心の週刊誌にこんな素敵な漫画が連載されていたのだ。

ちなみに27歳のタエ子の声はスターウォーズ最新作でレイを演じたデイジー・リドリーが担当。ちょっと英国訛りがあって、それがかえって昭和っぽく感じられた。昭和という時代が持ち得た良質な部分を爽やかに描いた本作は、世代や人種、時代を超えて人々の心を惹きつけ続けていくに違いない。

上映時間:1時間58分。
“Only Yesterday”英語公式サイト:http://onlyyesterdayfilm.com/