"Superman Returns"


昨日、試写で観た"Superman Returns"は、すごく良かったです。スーパーヒーローものは好きなので、"X-Men" "Batman" "Spiderman"と全部観てますが、こんなに主人公に魅了されたのは始めてでした。

今回のスーパーマン、なにやら神々しい。プラスチックで作った完璧な男のひな形のような体型と顔つき、その超アーティフィシャルな造形が、彗星のような速さで、垂直に地球に向かって飛ぶ。その、この世のものとは思えない美しさに、うっとりしてしまいました。

このスーパーマンを美しくしているのは、彼の持っている陰りの部分です。
生まれた星を失った悲しみ、人間には決してなれない悲しみ、ロイス・レーンのハートが掴めない悲しみ… 

彼が天空で、赤いマントをなびかせながら、地球を見下ろすシーンの孤独な静けさ。彼は宇宙に一人漂う存在、人間ではないのです。この世のものではない大空を飛ぶ超人が、抱く悲しみ、それがプラスチックのような造形に、美しい陰影を与えているのです。他のスーパーヒーローたちとの大きな違いは、彼のこの比類なき超人性です。

青春の悩みを抱えた"Spiderman"や、辛い過去の記憶に悩まされる"Batman"など、それぞれに人の世の範囲での葛藤でした。ところが、鋼鉄の肉体と超のつく強力(ごうりき)を持った超人、非現実的で完全無欠の存在が、悲しみを持った。だから、彼は神々しく、美しいのです。完璧な肉体に宿る神々しさは、運慶の彫った仏像彫刻のようでもあります。

たぶん、監督は他のスーパーヒーローとはまったく違う、超人の持つ神のような大きさと魅力を、描こうとしたように思います。それが、他のスーパーヒーローとどう違うのかは、映画館の大スクリーンで確かめてください。

監督は、犯罪映画の快傑作『ユージュアル・サスペクト』のブライアン・シンガー。彼は "X-Men"シリーズの1と2を撮って多くのファンを獲得しましたが、新作の""X-Men III" を蹴って、"Superman Returns" を監督しています。そのせいか、""X-Men III" は前2作と違って、大げさなアクション映画になっていると不評です。

確かに""X-Men" にも、ミュータントの孤独と悲しみが描かれていて、スーパーヒーローものでは一番好きなシリーズでした。
自分が異種である、他と何かが違っている、という思いを持ったことのない人はいないと思うのですが、シンガー監督の作る映画は、私たちの深い所に潜むそんな思いを呼び起こすような気がします。神と繋がりたい、という思いは、そういう所から発するものでもあるので、Superman が神々しく見えたのかもしれません。最後になって、ちょっと面倒な話になりました。

出演はブランドン・ラウスケヴィン・スペイシーケイト・ボスワースジェームズ・マースデンフランク・ランジェラ