"An Unreasonable Man"


"An Unreasonable Man" 写真クレジット:First Take (IFC)

昨日ラルフ・ネーダーが08年の大統領選挙に出ると発表したので、ぜひこの映画を紹介したい。ラルフ・ネーダーと言うと、2000年の選挙でブッシュを大統領にした男としての悪評がまず浮かぶ。

大接戦だったあの選挙に緑の党から立候補し、民主党のゴアの票を食ったためにブッシュが当選。「イラク戦争をありがとうよ!」と皮肉たっぷりに彼を非難する民主党支持者も多く、04年の大統領選に再立候補した時も、こりずにケリー候補の邪魔をする異常なエゴマニアと徹底的に非難された。

そうなのだろうか? そんな疑問からスタートするのが、このドキュメンタリーだ。彼を非難する学者や政治評論家、ネーダーと消費者運動を闘った仲間の声に、彼の支援者や知識人たちの反論を重ね合わせて、二つの選挙の実態と悪評の真偽を探って行く。

英語での政治論争は苦手のクチだが、的を衝いた論理のリレーに引込まれ、目からウロコがポロポロ落ちる面白さだった。

ネーダーはそもそも、大企業の利潤追求のあり方を厳しく批判してきた社会運動家。乗用車のシートベルト標準装備や食品の成分表明記の義務付けなど、私たちは彼の粘り強い運動の恩恵をかなり多く受けている。映画は、60年代から始まった彼と"Nader's Raider" と呼ばれた消費者運動の活動の歴史を分かりやすく紹介しながら、ネーダーが大統領選に出ざるを得なかった背景に迫っていく。

アフガニスタンイラクへの開戦に賛成した民主党、「ビン・ラディンを必ず見つけ出す」と公約したケリー候補など、共和党とどこが違うの?という疑問が浮かぶ。ケリーがブッシュよりマシ、と思って投票した人も多いと思うが、何かどうマシなのか。選挙が始まれば、細かい点は棚に上げ赤か青かの二者択一を迫られる大統領選の現実。そんな現状に一石を投じたのがネーダーの出馬だったのではないか。過熱を始めた来年の大統領選挙に向けて、新たな視点でアメリカ政治のあり方を見直すタイムリーな映画だ。

監督はヘンリエット・マンテルとスティーブ・スクロバン。共にTVコメディなどのライター。環境運動家のシットコムの下調べをしているうちに出来た映画とハズすところがコメディアンらしく、ネーダーのUnreasonable な人となりのおかしさも伝わる肩のこらない政治映画になっている。

上映時間:2時間2分。

"An Unreasonable Man"の英語公式サイト:http://www.anunreasonableman.com/