ジル・ボルト・テイラー


脳を持って熱心に語るテイラー。この18分の講演がネット上で200万回以上のヒットを続けている。
http://www.ted.com/talks/view/id/229
写真クレジット:TED Conference

前回の"A New Earth”の読書会の記事で本の内容を充分に説明できなかったので、今回はその続き。本の副題でもある「生きる目的にむけた覚醒」について考えたい。
著者エックハルト・トールによると、私たちの頭はいつも動いており、様々な考えが扇風機のようにグルグル回っている。瞑想をしたことがある人ならピンと来るだろう。今日は何をするかから始まり、自分を責める声や他者への批難などの否定的な声や未来への不安を掻き立てる声がよく聞こえる。

トールは、人間の苦しみの多くは不断に続く断定的で否定的な声と自分が一体化してしまうところから始まるという。しかも、その一体化した自分が嫌で堪らない。

ウーム、思い当たるフシだらけ。この声はどこから来るのか? 止められるのか? そんな長年の疑問に目からウロコの視点を提供してくれたのが、ジル・ボルト・テイラーという脳科学者だ。

彼女は今ちょっとした有名人。トールの読書会の後に始まった『魂のシリーズ』のウェブキャストに登場してオプラと対談。37才で脳卒中を体験した時の発見について語っている。

当時彼女はハーバード大で脳の研究をしていた博士だったが、出血したのが左脳だったため身体機能に始まり線的思考や言語能力を失なった。同時に左脳に蓄積された知識や記憶も失ない、社会的存在としての彼女はこの時点で消滅したとも言える。そして、右脳の人、感性や感覚のみの世界の住人となった。

ところが運の良いことに、彼女は脳卒中が始まってから4時間も意識があり、その時の体験を覚えていた。彼女はその体験を「涅槃の境地だった」と熱っぽく語る。

大変なことが起きた自覚はあるが、電話をかけるにも数字が認識できず、電話に出た友人の声は犬が吠えているようにしか聞こえなかった、という。左脳が止まるとこういう状態になるらしい。

反面、頭の中で常に回っていた思考の扇風機が止まり、完全なる静寂が訪れた。自分を囲む環境が生き生きと鮮烈に感じられ、平和な宇宙との一体感が身体を包み、それまで体験したことのない幸福感を味わったというのだ。

その後、彼女は手術をして左脳機能を取り戻し、別人として生まれ変わる過程を経験する。その時、彼女は意識的な選択をした。きれいになった左脳にゴミ即ち否定的な記憶を溜め込まないと決めた、と言うのだ。なぜかと言えば、失望や怒り、悲しみの感情は身体的に痛かったから。痛みを溜めても良いことは何もない、と明快に言う。

左脳の機能は線的で、常に物事を観察し、安全か否か、有益か否かなどの情報を整理判断を不断に繰り返している。これが否定的な声の大本だ。だが、意識的になれば、左脳で何を考え、何を残していくかを選択できる。誰にも今すぐできることだと言い切るのだ。

右脳は今目の前に広がる世界、その色、香り、音を体験することにしか関心がない。幼児の状態がそうだ。左脳は他と自分を分ける個の形成を担い、右脳は集合意識との一体感を体験させてくれる。テイラーは右脳体験を経て、過去や未来、他人の思惑など気にならなくなった、という。自分が今ここに在って「大いなる存在」の一部であるという確かな自覚を持つことができたからだ。

簡単にまとめたので、でき過ぎた話に聞こえるかもしれないが、私は彼女の屈託ない話しぶりと明るさに感動して、懐疑的な左脳の働きを止めた。そう、否定的な考えを止めることは誰にでもできる。これがトールの言う覚醒への第一歩なのだろう。

アメリカも日本と同様に戦争、不況、失業、地球温暖化という暗いニュースばかり。だからこそなのだろう。覚醒や悟りという話題がマスメディアに多く登場する。なぜ戦争を終結できないのか、なぜ消費文化は衰退しないのかという問いが、なぜ否定的な声が止まらないのか、という問いとようやく繋がった気がする。これまでのやり方とまったく違った進化が人類にとって必要な時に来ているのではないだろうか。

オプラのホームページ(http://www.oprah.com/spiritself/oss/guest/oss_guest_jboltetaylor.jhtml)にいくと、二人の対談のウェブキャスト(英語のみ)が無料でダウンロードできる。

英語が苦手でない方はぜひ観て欲しい。