"Friday Night Lights"(2004年)


"Friday Night Lights" 写真クレジット:Universal Pictures
気がついたら長いことアメリカ映画を紹介していなかったので、イチオシのアメリカ映画を紹介しよう。高校のアメリカン・フットボール(以下アメフト)チームの物語で、男性だけでなく女性が観ても、またアメフトのルールを知らない人でも楽しめる作品。邦題は『プライド 栄光への絆』だ。
アメフトを題材にした映画には、伝説の名コーチやらケガを克服して奇跡の復帰を果たす選手やらの熱血ドラマが多いが、この映画はだいぶ違う。

多くのアメフト映画がファンの熱狂に便乗して勝者の夢を売るのに反して、この映画は過剰な熱狂の重さに耐えながら懸命に生きる若者の姿を真正面からとらえていく。しかも、映画としてはあくまで娯楽仕様。スタジアムを沸かす激しいゲームシーンなどスポーツ映画のメインをきちんと押さえつつ、ゲームの勝敗と主人公たちのドラマがうねるように絡み合って最後まで目が離せない。

金曜の夜はゲーム観戦のために町が空っぽになるほど熱狂的なアメフトの町テキサス州オデッサが舞台。はっきり言ってアメフトしか娯楽のないような町で、パーミアン高校の選手とコーチが88年にステイトのチャンピオンシップに行き着くまでの実話である。

主要な登場人物は、ランニングバックで花形スターのブービーデレク・ルーク)、落ち着いたクォーターバックのマイク(ルーカス・ブラック)、かつてのステイト・チャンピオンだった父を持つドン(ギャレット・ヘドランド)、負けたら来年は失職と覚悟をしているコーチ(ビリー・ボブ・ソーントン)の4人だ。

選手たちは町の有名人なので特別扱い。だが、その分勝利への期待も大きく若い彼らはその重圧に押しつぶされそう、という秀逸な導入部からスタートする。

勉強嫌いのブービーは叔父と暮すアフリカ系の選手で、俊足が買われて全米の有名大学からスカウトが来ていた。こんな田舎町はオサラバ、大学を出たらプロで大金を稼いでやるぜとごう慢に振る舞っていた彼だが、ある試合で大けが。再起が危ぶまれる中で、コーチはブービー抜きの試合に不安を持つチーム内のムードを変えようと檄を飛ばす。

気になるのは精彩のないプレーをするマイクだった。彼にも大学からのスカウトが来ていたが決めかねていたのだ。病気の母と二人暮しの彼は、母一人を置いて遠い大学には行けない現実があった。

一方、アル中気味の父と二人暮しのドンも試合中の失敗が重なっていた。そんな彼を激しく罵る父。その言葉は激励というより虐待に近かった。

アメフトを通してこの映画が描こうとしたのは、アマチュアリズムをのみ込んでビジネス化したアメフトの現実と、たった一度の試合で生涯を左右される選手達の姿だ。

予期せぬ怪我で大きな夢を断たれたブービー、母思いの貧しいマイク、チャンピオンだった最愛の父の言葉で痛めつけられるドン。

サイドで描かれるメキシコ移民の選手がチーム内で差別的な扱いを受けるが、最も冷静で学業優秀、家族の愛にも恵まれた選手だったというエピソードも面白い。

それぞれに厳しい試練なので比較は出来ないが、父から罵倒され続けるドンの哀れさが最も胸に迫った。父の罵倒は失業中で負け犬感がつのる自分自身に向けられているものではあったが、子供にそれは分からない。怪我や貧乏、人種差別より親の虐待が一番心に痛く、人を大きく歪めていくのではないのだろうか。

アメリカの映画人は、実際にあった話を丹念に調査し、丁寧な人物描写と共に人間ドラマとして感動的に見せるのが巧いが、この映画はその優れた成功例と言える。

原作はピューリッツァ賞を受賞しているH.G.ビッシンガーによる同名のベストセラー。監督は俳優でもあるピーター・バーグで、彼が脚本も書いている。

変人奇人の役の多かったビリー・ボブ・ソーントンは、この映画であまり勝敗にこだわらないクールなコーチを好演。彼がマイクに大学に行くように勧める場面がこの映画のハートを伝える。

テキサス訛りが聞き取りにくいかもしれないので、DVDの設定を字幕付きにして観ることお薦めする。また、同名のテレビドラマ・シリーズも作られている。

上映時間:1時間59分

"Friday Night Lights" 英語公式サイト:http://www.fridaynightlightsmovie.com/