『Peaceful Warrior』


試写が終った時、高い山の空気を吸ったような良い気持ちになれた。ミルマン氏にお会いした時も、同じような感覚を持った。鍛えた筋肉質の体格がまず目を引くが、ソフトで謙虚な話ぶりは、お坊さんのよう。初対面だが、一緒にいて感じの良い人という以上に、とても気持ちの良い人だ。

この映画の原作となった"The Way of Peaceful Warrior" は、彼の自伝的小説。80年に出版され、スピリチュアルブームの火付け役となり、世界22カ国に翻訳されたベストセラーだ。(日本語訳『癒しの旅―ピースフル・ウォリアー』)。

オリンピック選抜を狙う大学の体操選手ダンが、ある晩に、ソクラテスと自称する謎の老人と出会う。彼は屋根に飛び上がってダンを驚かせる。その秘密を知りたいダンだが、ソクラテスは何も語らず、自分を見つめろとだけ言う。

「欲しいものを手に入れることが幸せだ」と野心満々に生きていたダン。が、彼は大きな挫折を経験し、ようやくソクラテスの言葉に耳を傾る。勝敗や結果を追う生き方ではなく、自分を満たし真に幸福に生きる道を探り始めるのだ。

二人がハイキングに行くエピソードが面白い。頂上に着いて、そこには期待した景観がなく「楽しみにして登ってきたのに」と文句を言うダンに対して、ソクラテスは「でも、登ってくる時は楽しかったろう?」と問い返す。あたり前の若者の姿を通して、結果や成果を求めない生き方の幸福が語られる。

身体をこわしたスポーツ選手が、ゴールを目指し強い意志で奇跡の回復という映画はあるが、この映画で作り手たちは、ゴールを捨てることの意味を説く。勝敗や結果にだけ価値をおく生き方の苦しさが、スンナリと伝わるってくる。この分かりやすさがこの映画の魅力であり原作が大ヒットした理由だろう。

ソクラテス役のニック・ノルテを始め、関係者の多くがこの本の愛読者ということもあり、脚本も演出もすべてプロに任せた。「作家はつい口出ししたくなるので、その点ではちょっと自負してるんです」と言うミルマン氏。出来上った映画は、主演の好演や瑞々しい映像が光る良質な作品。作り手の原作への感動と誠意が伝わる。

本の出版からすでに25年。ミルマン氏は「読むたびに違う発見があるという感想をよくもらいます。この映画も見るたびに違ったものが見えるはず」と言う。

ソクラテスが飛ぶシーンはやり過ぎ?との筆者の問いに「読者の注目を喚起したかった。作家の詩的な選択です」とニコリ。ソクラテスは後半で、平和な戦士の道は、高く飛ぶという結果にあるのではなく、一瞬一瞬を精一杯生きることの中にあると説く。いく度となく聞いた言葉だが、聞くたびにハッとさせられる言葉ではないだろうか。

監督はビクター・サルバ。主演:スコット・ミシュロウィック、エイミー・スマート
上映時間:2時間。