"An Education" (邦題『17歳の肖像』)


17歳の肖像』 写真クレジット:Sony Pictures Classics

16才というのは微妙な年齢。もう子供ではないが、夢見がちな時期でもある。この映画の舞台となる1961年のイギリスという設定も微妙だ。
ブリティッシュ・ロックが世界を席巻する少し前。戦後感覚がまだ残って庶民の暮らしも貧しく、慎ましい。そんな時代を生きた平凡な少女のお話。語り口が極上の巧さで、小粒のダイヤモンドの輝きを持つ秀作だった。

ロンドン郊外の町で、小心者の父の期待を背負う一人娘ジェニー(キャリー・マリガン)は、学業優秀な16才。オックスフォードを目指して勉強とチェロの練習に励んでいた。でも、毎日が退屈で死にそう。グレコのレコードを聞いて、うっとりフランスに憧れる。

そんな彼女に、高級車に乗るデイビッド(ピーター・サースガード)が声を掛け、ソフトな誘い文句でナイトクラブや絵画オークションに彼女を連れ出し、「文化教育」を施してくれる。ジェニーは、年長の彼が案内する洗練された大人の世界に眩惑される。

デイビッドは言葉巧みな男で、両親に「ジェニーの誕生日にパリ旅行をプレゼントしたい」と申し出て、まんまと承諾を得てしまう。英国階級社会の反映か。ハイソに振る舞うデイビッドに父は引け目を感じ、母親も「良い男が見つかったので大学に行かなくても」と言い出す始末。親の権威も形無しで、ちょっと首をひねるジェニーだ。

原作は英国で著名な辛口ジャーナリスト、リン・バーバーのメモワール。それを小説家ニック・ホーンビィが脚本化し、デンマークの映画運動ドグマ95ロネ・シェルフィグ("Italian for Beginners") が監督した。実力派スタッフが集まって成功した好例で、ロマンチックな音楽やファッションがおっとりとした時代のムードを醸し出して眼福だ。見どころはマリガンの飛び切りの愛らしさ。24才とは思えない初々しさで知性豊かな少女を好演している。

痛い思いもするジェニーだが、それが傷として残らない。デイビッドへの感情が恋愛ではなく、ひとときの夢であることに気付くことができたからだろう。聡明な少女だ。
原作のバーバーはある雑誌の記事で「あの体験が自分を懐疑的にしたが、ジャーナリストとして生きていくのに役に立った」と語っているのも面白い。

上映時間:1時間35分。サンフラシスコはカブキ・シネマ、エンバカデロ・シネマで開始中。
17歳の肖像』日本語公式サイト:http://www.17-sai.jp/